グラヴィティ
晴天、快晴。
突き抜けるような日差しの源を湛える空は、遠く高い青。
すごしやすさに拍車をかけてきた柔和な風は、寒さによって失われていた色が取り戻される、花の季節に似つかわしいものだった。
柔らかな草木を背景に、コンクリートの道筋を一台のオープンカーが疾走していく。
真っ直ぐに地平線へと伸びる公道はまるで世界の果てへ続いているみたいだ、と、かつて記憶に刻んだ声音を脳裏でリピートしながら、運転席に座する男は関節に力を込めた。
ハンドルに絡んだ指が白む。
超過しがちなスピードを気に留めることもせず、駆け抜ける車体は、一線を引くように赤の残像を残していった。
陽光を受けて、たなびき、輝く髪は、銀色の光を零しながら風に煽られて。
躊躇いなく踏み込まれるアクセルに、エンジンが力強く応える。
髪とほぼ同色の瞳は揺らぐことなく眼前を見据えたまま。
「……チッ…」
小さく打たれた舌は、言葉を乗せることなく肺から息を吐き出すにとどまった。
地平線は、断ち切られるように青へと溶けていく。
空の青と、海の青。
潮の香りを一身に浴びながら、運転手は瞳を細めた。
引き出しに収めていた、記憶を引きずり出すように。
―――十二月
「スクアーロは、あっさりしてそうで、そうじゃないよね」
三人掛けのソファにて、背もたれにしなだれかかった綱吉が囁きかけるように零した言葉は、やけにゆっくりとした響きで俺の耳朶を擽った。
腕を折り重ねて簡易の枕としているのか、そこに頬を預けた様子は、どこか眠気を伴っている。
くて、と首を寝かせた振動で、前髪が僅かばかり垂れて。
「一度懐に抱いたものは、なかなか捨てられない。非情を装おうとしても、うまくいかない。違う?」
ふ、と緩められた目元は弧を描いた。
放たれる言葉は非難を思わせるのに、表情が柔らかいせいで不快感が半減されてしまって……なぜか、調子が狂う。
うながされるまま隣に腰掛けた俺は、視線だけでなく顔面を奴に差し向けた。
わかりやすく、眉間に皴を寄せ、怪訝と嫌悪を滲ませながら。
「人がいい、とでも言いたいのか」
それは、侮辱でしかない。
暗殺者の名折れだ。
しかし。
問うことで促し、返された言葉は、想像の範疇を超えていた。
「そんな生易しいものじゃないよ」
耳穴に入りこみ、鼓膜を震わせ、音声として認識された一言は、なかなか情報としての形を成すことができずにいた。
ぴくりと指先が震えて、そして……次はない。
ピタリと動きを止めてしまった俺は、呼吸の仕方すら忘れていて。
にっと口端を吊り上げながら頭を持ち上げた綱吉は、背を反らせ、伸び上がるようにして俺を見下げた。
「スクアーロは、俺をダメにする」
放たれた宣告によって、俺の時間は再生を果たした。
―――十月
「海が見たい」
綱吉が望むままに、俺が『十代目』の護衛について四ヶ月が経過した頃のこと。
昼食を終えたあと、持て余した時間を俺の膝の上で潰していた綱吉が唐突に漏らした呟き。
何気ない願いだ。
だが、職務に忙殺される日々をやり過ごさなければならない『十代目』にそんな暇はないわけで。
「去年のバケーションに行った日本海を思い出せぇ」
「思い出に浸るのは、大切な誰かと再会した時と、死ぬ間際だけでいいよ!」
むっと頬を膨らませながら、向かい合う俺の胸元へと頭突きが叩き込んできた。
痛い。
「ん…ぐふっ…!お前、なぁ…!」
「ねえ、どうしても。お願い、スクアーロ」
「っ…!無茶言うなぁ!」
ぐりぐりと額を押し付けてくる綱吉の腰に腕を回した状態で、動きを抑える意図を持って、顎を真下の脳天に乗せる。
のしかかる重みに小さく呻きながら、俺の胸元に鼻先を埋めながら、綱吉はひとつ大きく息を吸った。
緩く盛り上がる背が丸められて。
「だって俺、結構まじめに頑張ってきたと思わない?毎日毎日、紙束と格闘して、名前もよく知らないおじさん達の相手して……女まで勧められちゃったんだけどどうしよう?」
「断れぇ!」
「あ、そこは反対してくれるんだ。うん、断ってるんだけどね」
「……お前にとっての良縁なら構わねえぞ…」
「俺が構うから。ってそれはいいとして!」
そこ拾わないでよ、とぼやきながら、綱吉が頬を摺り寄せる。
布地越しとはいえ、上着を脱ぎ捨てたワイシャツ一枚の状態だから、肌で感じる温かみは俺の芯をうずかせた。
誘ってんのかこんにゃろう。
「連れてってよスクアーロ」
「だから、無理だろぉ。俺の都合はお前の一存でどうにでもなるが、お前自身のはそうもいかないじゃねえか」
休みがない、とぼやかれるのは何も今が初めてではない。
現状のような甘ったるい関係を築く前から、ヴァリアーと十代目チームの橋渡し的役割を担っていたがため、話す機会には恵まれていたのだ。
そういえば、こいつと付き合いはじめてから半年が経とうとしているのか……。
「…ん?なんか上の空じゃなかった?今」
「……いや、そんなことはない」
「そう…?」
時折、無用なところでこいつの直感が働くことが、身にしみてよくわかってしまった時期でもある。
「できれば断崖絶壁がいいなぁ。火サスで犯人が自白するくらい波と風がすごい所」
「カサス?んな危ねえ所で何がしたいんだぁ…」
「んー?……浸りたいんだ」
「……何に」
「思い出」
―――八月
豪奢、と表現していいと思えるほど激しい日差しが肌を貫いてくる日和は、旅疲れの身に酷く堪えた。
とはいえ、どこもかしこも屋内は冷房によって温度管理が成されているから、ダメージを受けたくなければ屋根のあるところに避難すればいいだけの話なのだが。
空港からタクシーに乗り換え、たどり着いた街並みは酷く俺の心を掻き乱した。
並盛。
懐かしくも歯がゆく、もどかしい空気が俺を苛む。
ありとあらゆる色の絵の具を、全てぶちまけ、ぐっちゃぐちゃに混ぜてしまったような、汚泥に似た感情の渦。
憎いわけではない。
悔いているわけでもない。
結果こそが全て、というのは元よりヴァリアーの専売特許みたいなもんだ。
過程がどうであれ、裏に操り糸がかけられていたとて、結果は結果。
十代目は正統なる血筋が受け継ぎ、組織を支えようと奮闘している。
マフィアという存在自体に疑問を投げかけながら。
そして……今、俺の隣に立っているのだ。
「…おかしいね。そんなに長い間離れていたわけじゃないはずなのに」
己の実家を前に立ち尽くす綱吉は、少し身体に力が入っているようだ。
いつもより、数センチ肩が竦められている。
「緊張、っていったらおかしいけど……なんだろう。まるでもう、俺の居場所なんかないみたいに、見えちゃって」
変だよね、と俺を振り仰いだ綱吉の笑顔は、若干強張っていた。
高校を卒業して、なんだかんだと手続きを済ませ、日本を発ったのは確か梅雨の頃。
久方ぶりの帰郷は、想像以上に懐古の念を揺り動かしたようだ。
本当に、そんなに離れていたわけでもないはずなのだが。
「……まあ、家を出たも同然だったからなぁ……だが、ここがお前の『家』なんだろぉ」
俺にはわからない感情だ、と付け加えれば、くっと息を詰めた綱吉が瞳を丸めた。
「ご、めん…」
「謝る意味がわからねえ」
別段困ることもない。苦しみを感じることも。
帰る家がない、という現実は、俺の感慨をくすぐることすらできずにいる。
触れられて痛い部分であるはずもないのだから。
とはいえ、影を落とす綱吉の表情を、そのままにしておけるほどそっけない関係でもなくて。
「…お前が、いれば」
「え?」
自然と、口が動いていた。
「そこが、俺の帰る場所ってことにもなるだろぉ。あと、ヴァリアーの本部とな!」
こっ恥ずかしいことを漏らしてしまい、慌てて付け加えた言い訳はまるで蛇足。
墓穴を掘ってしまった気がしてならない。
帰る場所など必要ない、というのが、常に俺の思考の八割方を占める絶対的考えだ。
が、ふと湧いた感情が、舌に乗ってしまっていた。
本心なのか、と問われれば否と答えざるをえない、ありえない感情。
だが……否定的な言葉よりも先に飛び出た、という現実を見過ごすこともできなくて。
「別に、お前が俺の全てだ、とか、言うつもりはなくてだなぁ…!」
「スクアーロ」
全てには出来ない、と告げたのは、俺の方が先だった。
決意が崩れることはない。
が、それを宣言する前に、まっすぐ俺を見上げる綱吉に止められてしまった。
俺の名と呼ぶことと、服の裾を小さく引いてみせることで。
「わかってる」
薄く開いた唇の隙間から覗く赤い舌が、やけに淫靡に映るのは……夏の魔力というものだろうか。
「好きだよ、スクアーロ」
「っ…お、れも、だぁ…!」
真昼の往来でなんということを言い出すのか、と羞恥に苛まれながらも素直に返せば、満足したような笑みを広げた綱吉が、眩しそうに瞳を細めた。
「ほんと、スクアーロってイタリア人らしからぬ、って感じだよね!」
あはは、と声に出して笑いながら、足元に放置していた荷物に手をかける綱吉に視線を投じて、俺は胸につかえた棘を引き抜くべく。
「あはは…って、え?」
意趣返しを。
「な、ちょ…こんなところで何すんのさ!」
スーツケースの取っ手を掴んだ手を引き寄せながら、顎を軽く持ち上げて。
触れるだけの。
瞬間的な、口付けを。
「バッ、カ…!誰かに見られたら…!!」
「悪かったな。イタリア人らしからぬ、で」
言葉に出すのは苦手だが、態度で示すのは手馴れたものだ。
俺をバカにすると痛い目を見る、ということをよくよく理解するがいい。
「もうー!」
「はっ!先に行くぞぉ」
「え!?いやちょっと!ここ俺の家だから!!」
お前が先に入るなよ!と玄関先へ踏み出した俺を追いながら、綱吉は俺の背へと拳を伸ばしていた。
肩の力は、すっかり抜けきっていた。
―――四月
「スクアーロが、好きだから」
無事卒業を果たし、学業に区切りをつけた次期ボンゴレ当主との関わりが顕著になり始めた頃。
イタリアへの長期滞在に関する手続きの書類と説明のために赴いた俺を待ち受けていたのは、沢田綱吉の唐突なる命令だった。
奴の宣告は、主に二つ。
ヴァリアーとはいえ、殺しを易々と行うなということ。
何においても自身の命を守ることを優先しろということ。
何故いきなりそんなことを言い出すのか、と問いただしたところ、前記の言葉につながってしまったのだ。
俺が、好きだということに。
「好きだから……死なないでほしいって、思う」
怪我もしてほしくない。
危ない仕事もしてほしくない。
本当なら、ヴァリアーを辞めてくれって言いたいけど……それをすれば、ヴァリアーの存在自体が危うくなりかねないから…。
そう言葉を連ねる綱吉の姿は実に冷静に見てとれた。
激情を顕わにするでなく、恋情に焦がれることもなく。
ただ、強い眼光が、印象的で。
「……俺は、お前だけを大切にすることなんて、できない」
「わかってる」
「お前とボスが対立しようとしたならば、俺は迷いなくボスの手をとることになる。それでもか」
「うん。構わない」
射抜くような視線は、見知った紅に酷似していた。
そういうところは…炎を宿す者の共通点とでもいうのか。
それとも――。
「俺が、お前に惹かれていることも、承知で言ってんのかぁ…」
「……うん」
もうずっと、見つめ続けている自覚はあった。
思わず目で追ってしまう存在なのだと。
放っておけない、傍で見守りたい存在なのだということを。
「俺は、お前だけを選ぶことは出来ないぞぉ…」
「うん。俺も、スクアーロだけを選ぶことは、できないから…」
言って、ぐっと瞼を降ろした瞬間に、やっとこいつの熱を知る。
わずかに寄せられた眉間。
震える睫毛。
握りこまれた指先の白さ。
その全てで。
眼前の存在に捕らわれすぎて、目に映らなかった細部が脳裏に飛び込んできた。
同時に、それが酷く、愛しいとも。
「だけど……好きだからっ…!」
躊躇いがちに上げられた視線に、心臓が震えた。
「抑えたくない。抑えられたくなんて、なくて…!」
この先がどんなに茨の道であろうと、捨て去りたくはない、熱を孕む感情。
許されはしないだろう。
互いが、全てになることは。
それでも。
「お前に全てをやれはしない」
「俺も、俺の全てを、スクアーロにあげられは、しない、よ」
それでも……愛してる。
言葉には、出来なかった。
させてやれなかった。
吐き出そうとした空気ごと、俺が飲み込んでしまったからだ。
触れ合った肌は、奴が身の内に秘める炎を思わせるほど、熱くて溶けてしまいそうだった。
いっそ溶けて、ひとつになればいいのにと、愚かにも願ってみせるほど。
少し背が浮くほどの反動を伴って、赤の車体がぴたりと止まる。
人の行き来がほぼ皆無の路上の端に車を放置して、歩みの矛先を向けたのは、舗装されていない砂利道だった。
潮の香りが鼻につく。
帰ったら風呂に入らなければ、髪がべたついて気持ちが悪いな、と不快感を消化しながら、運転手……スクアーロは眼前の景色へと意識を移した。
ざくざくと鳴る足元が、徐々に騒がしさを失っていく。
代わりにごつごつとした大きな角が足裏を刺激するようになり……。
開けた視界には、青と白と、無骨な岩肌。
切り立った崖。
打ち寄せる波。
目に痛いほどの青は、心を洗うにはふさわしい場所である。
が、ここに来た目的は魂の洗濯ではない。
「……綱吉」
「そろそろかな、とは思ってたけど」
思ってたより早かったなぁ、と独り言のように呟きながら振り返った青年は、風が吹けば身体が傾ぎ、真っ直ぐに落ちてしまいそうなほど岸壁の際に立っていた。
「どうしてここが?」
「白々しいな。携帯、わざと電源点けたままだったんだろぉ」
「音は消してたけどね」
それは十代目として持たされた携帯ではなく、俺と連絡を取るためだけに用意した綱吉のプライベート回線だった。
存在すら、俺と綱吉自身しか知らないから、痕跡を追えるのも俺だけで。
綱吉の突然の失踪に慌てふためく本部を無視して、俺は一人出てきたのだ。
「……浸ってたのかぁ?思い出に」
「うん。なかなか有意義な一年だったと思うよ」
嫌なこともたくさんあったけど、いい思い出には必ずスクアーロがいたから。
囁くように吐息まじりで告げる綱吉は、両手を重ね、指を絡めながら俺を見つめる。
吹き上げる風に、わずか、綱吉の足がもつれて…。
内臓が震えるものの、表に出さないだけの冷静さは保たれていた。
「死ぬつもりか」
「うん」
至極当然、と言いたげな様子が、憎らしい。
「どうして」
「……これ以上は、ダメだから」
指を絡めたまま、開いた掌で心臓の辺りを押さえた綱吉が、ゆっくりと目を閉じる。
鼓動に感じ入るように。
「ここが……スクアーロでいっぱいになる」
じんわりと、綱吉の顔に苦笑が滲む。
はあ、と吐息の塊をひとつ吐き出しながら、綱吉がうっすらと唇を開いて。
「俺はスクアーロだけのものにはなれない。スクアーロだけでいっぱいにはなれない。背負うものがある。大切なものがたくさんある。それを、手放すことはしたくない」
どく、と一際大きく心臓が跳ねる。
耳に流れる血液の音が、やけに熱くなった気がして。
「なのに……スクアーロでいっぱいになる。いっぱいに、なりそうになる」
全てを投げ出して、スクアーロだけを求めそうになる。
もっと会いたい。
もっと触れたい。
いつだって傍にいて。
どこにいても俺を想って。
吐き出しそうになる願望を喉で押し殺すように、綱吉がぐっと唾を飲んだ。
……人間は貪欲で。欲深で。愚かしくて……だからこそ、愛おしい。
「それじゃダメだってわかってるから……止めようと、したのに……」
会えば会うだけ願いは膨れ、
触れれば触れるだけ欲は増し、
傍にいれば別れを疎み、
想えば想うほど深みにはまる。
わかりきっていたことだ。
互いに、こうなってしまうことは。
けれど。
「止められなくて…!」
ボロリと溢れた涙をぬぐってやりたくても……手が届かない位置に綱吉は立っている。
それ以上は近づいてくれるなと、気配で俺を拒みながら。
「何もかもを投げ捨てて、スクアーロに走りそうになる。手を伸ばして、求めて、手に入れて、世界を狭めてしまいそうに…!」
導き出される結果は最悪の状態だ。
愛だけに生きることは、許されない立場にある。
相手が俺であればなおさらのこと。
倫理。常識。法。観念。
闇に暮らすマフィアだからこそ、厳守せねばならない掟もある。
誰かを不幸にする形ではなく、誰もが笑って生きられるようにボンゴレを潰すことが目標なのだと、いつだったか漏らした綱吉。
その願いが今も廃れていないのならば……。
茨以上に、過酷な道で。
「いけないってわかっていても、俺はもう俺自身を制御できない。なら……」
「死ぬしかない、って、言うのかぁ…!」
愚かだと、思う。何度でも。
そして、何度でも……愛しいと。
「―――っ」
一際強く吹きつけた風に、綱吉の身体が倒れこんでいく。
待ち受ける青は酷く澄んでいて、どす黒い血さえもきっと飲み込んで浄化してしまうのだろう。
だが。
「はっ……」
そんなことは、させない。
「くだらねえなぁおい!」
離れた距離を一気に詰めながら、掴んだ手首はやけに骨ばっていた。
食が細くなっているのか。
帰ったらたらふく、嫌というほど食わせてやらねば。
「お前が、お前を制御できないと言うのなら」
勢いのまま引き寄せ抱きこむ肩、腰、腕。
感触は、いつだって柔らかで、ほのかに香る匂いに酔わされる。
そう、いつだって。
「俺が、お前を制御してやる」
こいつは、俺を惑わせ続けるのだから。
「お前が俺だけに堕ちようとしたら、俺がお前を殺してやるよぉ!」
自分でもわかるほど、俺は高揚していた。
自然と上がる口端に、くっと喉が鳴る。
なんと甘美な世界だろうか。
「だから、その時は、お前が俺を殺せぇ!」
愚かなことだ、綱吉。
誰か一人に堕ちようとしているのが、己だけだという考えは。
まだまだ甘い。視野が狭い。
堕ちるなら引きずりこめばいい。
散るなら共にと願おうではないか。
俺がそう差し向けているのだということも知らぬまま。
たった一年で。
されど一年で。
俺の求める至高の世界が形を成そうとしているのだ。
腕の中で綱吉が息を呑む。
俺の熱に気づけばいい。
お前に引き寄せられ、堕ちてしまった男の存在を思い知れ。
堕ちろ。期は満ちた。
たどり着く先が地獄なら、極彩色に染め上げてやろうではないか。
覆いかぶさる唇を拒むことなく、ゆっくりと目を閉じて受け入れる存在に、眩暈を覚える。
さあ、綱吉。死なばもろとも。
俺がとうにお前に堕ちきっていることを、身をもって知るがいい。
グラヴィティ
また、奇妙なものを書きました…(自覚済み)
回想で、段々記憶が過去に遡っている、ということを表現したかったのですが……わかりにくいですよね…すみません。
これもひとつの愛の形、だとか、言ってもいいですか……?
ご精読ありがとうございました!!