「スクアーロ、俺思った」

「……なんだぁ」

「おでんに人参を入れてはいけません」

「一応理由を聞いてやる」

「俺があまり好まないからです」

「却下」

「うわぁぁぁああああああん!スクアーロの十円ハゲぇえええ!」

「ハゲてねぇえええええええ!!」







おでん







「我が侭言ってんじゃねえ!つうかお前が言ったせいだろぉ!いきなり!突然!唐突に!」

「おでん食べたい。」

「ああそれだぁ!目も口も半開きのまぬけ面まで再現できてんじゃねえかぁ!」

「だって口が求めたんだもん。食べたいものは食べたい。

 昔は散々我慢する子だったから…っていうか今もだから、スクアーロの前では本能の赴くままに生きようと決意したのです。褒めて」

「お前がそれで少しでも楽になるんなら構わないと言ったのは俺だ。が、今回は少々腑に落ちない点がある」

「言ってごらんなさい」

「おでん宣言の二十分前にお前は何が食いたいと言った」

「ちゃんこ鍋食べたい。」

「そうだぁ!晩飯の買出しに付き合うっつうから何が食いたいって訊いてやったんだろぉ!

 そしたら、その、右斜め45度を眺める角度で視線だけをこっちに向けながらぼんやり言いやがったんだぁ!つうかその顔ムカツクなぁ!」

「人の気分なんて簡単に変わってしまうものなんだね……テレビジョンマジック!」

「テレビの影響かぁああああああ」

「静岡の黒いおでんが食べたい」

「脈絡なさすぎなんじゃねえのかぁ」

「さっきテレビでやってたんだー。駄菓子屋さんにね、おでんがあるんだって」

「のれん間違ってんだろ」

「それが正しいの!すっごく美味しそうだった……」

「あーわかったわかった。いいからさっさと箸を持て」

「むっ……だからさぁ、人参はダメだってば」

「ちゃんこから急遽おでんに切り替えさせられた俺の悲しみを食らうがいい」

「やっぱりちょっと嫌がらせ入ってんじゃんか。なんて酷い男なんだろう。この女泣かせ!」

「関係ない!それに女なんざ、構ってもほっといても勝手に泣くものだろぉ」

「あ、それ問題発言なんじゃない?」

「………聞き流せ」

「別にいいけど」



「煮えすぎた?」

「味が濃いなぁ」

「お湯足したらいいんじゃない?」

「いや……今の状態で足したところで…かき回せねえだろぉこの具の量じゃ」

「でも濃いよ…」

「とりあえず上の方の具を食っちまおうぜぇ。軽く減ったら薄める」

「オーケー!ではどうぞ!」

「俺一人で処理しろってかぁ…!」



「大体なぁ…この季節に鍋って発想がまず間違ってんじゃねえのかぁ?」

「んー…まあ否定はしない」

「湿気と混じりあって部屋中暑いぞ……」

「そろそろぐったりしてきたね……」

「窓開けても変わらないからな……」

「扇風機を出すべきだったかな」

「鍋のためにか」

「それだけの手間をかけてでも、この鍋には価値があるってことだよ。おでんになったけど」

「それはお前に責任がある」

「叶えてくれるスクアーロの甘さにもちょっとは責任被ってもらいたいなぁ……俺はそこにつけこんで甘え倒すんだけどねー」

「お前なぁ……」

「日本ではさ、鍋は家族でつつくものなんだよ」

「………はぁ」

「夫婦なら二人で。一人暮らしなら一人で。四人家族なら四人で」

「はぁ」

「だから、これは契りなのですスクアーロ!」

「………………………わかった」

「え?わかったの!?そ、そんなに聡い人だったんだスクアーロ…!」

「人参はよけてやる」

「……………そうじゃなくってぇ……」


がっくりと首を落としながらもヤケだと見せつけるようにガツガツとおでんを食らう綱吉を盗み見ながら、俺は自分でもやっと聞こえるほどのささやかさでフンと鼻を鳴らした。






おでん