初代様がみてる 2
「待てぇ!」
「ひっ!」
特別棟を抜け、どこへ行ったらいいのかもわからない俺の足は、すぐそばにあった温室の敷居を踏み越えていた。
とりあえず、逃げたい。
ものすごい形相のスクアーロさまが何故か追ってくるからだ。
…何故か?
いや、理由はわかっているのだけれど。
「待ちやがれぇ…!」
「ま、待てません!」
温室の中は色とりどりの花が咲き誇っていた。
赤。白。黄色。
整えられた花園の中を、じゃれあうような追いかけっこ……なんて表現は大間違いだ。
「おらぁ!」
「ふわぁ!」
頬を掠めた草を反射的に避けた瞬間だった。
突如襲う、過激な力。
進もうとする俺の力と手首を捕まえるスクアーロさまの力。
せめぎあう力同士の軍配はさっさとスクアーロさまに上がってしまった。
ぐい!とひかれた手首はしっかりと締め付けられていて痛い。
思いのほか力強く引き寄せられたものだから、体勢が崩れて後ろへ数歩倒れこむ。
よろめいた俺の身体が突き当たったのは……。
「話くらい、聞けぇ…!」
「う、あ、え、えっと……すみません」
「意味もなく謝ってんじゃねえよ…!」
肩をそっと支えてくれたスクアーロさまの体躯だった。
ぎゅっと掴んで離さない手首とは対照的に、肩に添えられた掌は穏やかで優しさすら感じられる。
……スクアーロさまのことが嫌いなわけではない。
言うならば、憧れ、だろうか。
遠い遠い、雲のような存在。
手の届かないお人、だったはずなのだ。ついさきほどまで。
遠くからお姿を拝見したことはある。
入学式の折、新入生歓迎と称して披露されたスクアーロさまの剣舞は、争いを極端に避けたがる俺でも目を奪われるほどだった。
キラキラと、高窓から降り注ぐ日の光を弾く銀髪。
腕に括りつけられた白刃を振るう姿は凛とした中に柔軟な筋肉のしなりを帯びていて美しさを感じた。
惹きつけられるに充分な魅力。
学園の生徒の大半は薔薇様方のどなたかに憧れを抱いているもの。
もしどなたのファンなのだ、と問いただされることがあるのだとすれば、俺は間違いなくスクアーロさまだと答えるだろう。
そしてなんと光栄なことに今俺の目の前には、スクアーロさまと一等親密に、お近づきになれる権利がちらつかされているのだ。
目の前で揺らされる、超高速の直行便チケット。
けれど。
「あ、あの、スクアーロさま…」
「なんだぁ。とりあえず部屋に戻るぞぉ。話はまだ終わってない」
肩から手を離し、掴んだ手首を引き寄せ、先導するスクアーロさまの足はまっすぐに出口へと向かっていた。
きっと特別棟に引き戻されるのだろう。
けれど、俺には向かうべき理由がない。
「スクアーロさま…!どんなにおっしゃられても、俺はスクアーロさまの妹にはなれませんっ」
「…………理由を聞く権利くらいは、俺にはあるな?」
「は、い…。えっと、その…こんなんでいいのかなって、思っちゃって」
「はあ?」
ふと足を止め、振り返った瞳に射抜かれる。
怖いというよりも、ドキっとしてしまうような、閃光のような視線。
「俺は、スクアーロさまのファンです。でもファンだからって、必ずしも妹になりたいかっていうと…そんなことない、っていうか…遠くから見てるだけでいいっていうか…」
「ファンにはファンなりのプライドがあるってかぁ?………よくわかんねえよ、俺には」
そっと目を伏せたスクアーロさまは俺の方へ向けていた顔を逸らしてしまった。
ぎゅっと握られたままの手首から、冷えた感触が伝わってくる。
スクアーロさまの手は、すこし冷たい。
俺の手は人よりすこしあったかくて。
吸い付くような温度差にわずかな心地よさを感じながらも、俺は引かれるまま、特別棟へと歩みを進めていたのだった。
「お、帰ってきた。おっかえり〜」
「うるせえ」
「なんだよその態度ー!先輩に向かって失礼なっ!」
特別棟を目の前にして、やっとスクアーロさまの拘束から解き放たれた俺は、逡巡しながらもスクアーロさまの後を追って扉をくぐっていた。
ギシギシと鳴る階段をスクアーロさまに続いて上り、彫りの刻まれた扉を開けば、俺が飛び出す前とほぼ同じ様相で皆様が居並んでいて。
真っ先に声を掛けてきたのは、やはりというかなんというか、白薔薇ディーノさまで。
「それに、ちゃんとツナちゃんも連れて帰ってきたわけだ」
「ツ、ツナちゃん!?」
頬杖をつきながらにんまりと笑うディーノさまは俺に向かってひらひらと手を振ってきた。
いや、それよりもツナちゃんってなんだ!
この学園では通常、上級生に対しては「さま」同級生や下級生に対しては「くん」や「さん」をつけて呼ぶ。
呼び捨てる際は苗字。
敬称を付ける場合は名前か苗字か、どちらを使うのかはそれぞれの親密度合いによるが、それにしたって「ツナちゃん」って!
「あれ?違う?確かクラスの子達に愛称で呼ばれてるって、スパナが…」
「うちに振るんですか…」
スパナが、と言いながらディーノさまがちらりと視線を投げた先には、ぼんやりと窓の外を見つめる人物がいた。
黄薔薇のつぼみの妹。ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン・プティスール。
彼は確か隣のクラスの生徒だったはずだけれど。
「あんただろ?写真部の獄寺が追っかけまわしてる被写体」
「あ……なるほど」
それか。
写真部の獄寺くんは同じクラスな上、何故か俺を慕ってくれていて、よく一緒に話したりお弁当食べたり…写真を撮られまくったりしているのだ。
獄寺くんはどうにも荒っぽいところがあって、目立つ存在なのだが、その彼に異様に懐かれているということで俺まで目立ってしまっていたりも…時々する。
「春の遠足の時、ものすごい枚数の写真が撮られて掲示されてたから、あんたのことは結構知られてるよ」
「え!?そんな知られ方嫌なんですけど!」
一ヶ月前の春の遠足。
プロのカメラマン撮影のものと写真部による撮影のものが同時に廊下に貼り出され、注文を書くというのも…今となっては懐かしい思い出だ…。
写真部担当部分の三分の二に俺が写りこんでいたなんて……さっさと思い出にしてしまいたいんだよ…!
「確かクラスの一部から『ツナ』って呼ばれてるんじゃなかった?」
「そ、そう、だけど…」
「ほら。じゃあツナちゃんでいいじゃん」
ね?と小さく首を傾げるディーノさまはなんだかとっても人懐っこい感じ。
白薔薇様って、こんな方だったんだ。
薔薇様方のイメージは『高貴で美しくて全ての紳士のお手本』で、近寄りがたい存在だったのに。
「う゛お゛ぉい!ちょっと待てぇ!」
「ん?」
「軽々しく愛称で呼んでんじゃねえよ!綱吉だって萎縮すんだろうが!」
…………。
うわあ!
つ、綱吉って!
スクアーロさまが綱吉って呼んだ!
名前を知られてそう時間も経っていないのに綱吉って…!
「なんだスクアーロ、嫉妬か?」
「意味わかんねえこと言うな!思いっきり話逸らしやがって!」
下の名前で呼び捨てにされるって、それこそ姉妹じゃないとありえない、のに。
ああでも、スクアーロさまだったら「沢田」っていうより「綱吉」って呼んでくださった方が似合ってる気が……。
なんてぼんやり思考を飛ばしていたら、突然ぐっと肩を引き寄せられた。
「っ!?」
「こいつを俺の妹にするっつってんだろぉ!だから、あの話は無しだぁ!」
隣に立つスクアーロさまに引き寄せられたからだ。
少し顔を動かして見上げれば、端整な顔立ちがまっすぐ前を見つめている。
眼前に据えられた木目の美しい円卓を挟み、紅薔薇、白薔薇、黄薔薇のお三方へと、挑みかかるように。
「あの話を無し?なんのことだよ」
ふ、と表情を改めて、ディーノさまが頬杖から顔を上げる。
「俺抜きで勝手に進めた配役を、改めろって言ってんだろう」
「お前抜きとは心外な。それだとまるで俺たちがお前を除け者にしてたみたいじゃないか」
「違わねえだろぉ!現に俺は聞いてなかった!」
「だからって今更…それに、その件とツナは関係ないじゃないか」
「う゛お゛ぉい!だから『ツナ』って言うなぁ!呼び捨てにまで発展してんじゃねえ!」
な、ななななにが何やら。
突然始まった言い争いの間にも、俺はスクアーロさまに密着したままだ。
心臓に悪い!
それに、聞き耳を立てているといつの間にか俺も巻き込まれているような?
心拍数は無駄に上がるし、男相手にドキドキするって俺どうなの、みたいな考えも巡るし、口を挟むこともできないし、で俺はひたすら混乱するしかない。
スクアーロさまとディーノさまの言い争いはスクアーロさまが一方的にヒートアップしているし…!
どうしよう!
どうすればいいんだろう!
「はい、ちょっとストップ」
君たち熱が上がりすぎだよ。
ふう、とひとつ息を吐いてストップをかけたのは黄薔薇様。
ロサ・フェティダである白蘭さま。
「綱吉くんが随分挙動不審だよ。可哀想に。状況を把握してないんじゃない?」
ね?と同意を求められたのが俺には救いの手に見えて、思わずブンブンと首を縦に振っていた。
「あ、ああそっか。っていうか、もう説明してるもんだと思ってたのに…スクアーロ…」
「俺のせいだって言いたいのかぁ!?」
沈静化したかと思わせながら、お二人の口論は止まってはいなかった。
「はいはい。いい加減にしてよね。スクアーロ、君はなんで綱吉くんを引き合いに出したわけ?」
「お前らが言ったんじゃねえかぁ!妹一人作れない人間に発言権はないってなぁ…!」
「だからって、誰でもいいから妹にしろってわけじゃないでしょ。ディーノが必要以上にスクアーロを煽ったのはいけないけどね」
「う……ごめん」
白蘭さまにちらりと横目で窘められて、ディーノさまはシュンとうなだれた。
煽ったって…。
「まあ仮に綱吉くんがスクアーロの妹になるとして……配役を変えるというわけにはいかないよ」
「約束が違うじゃねえかぁ!」
「発言権と決定権の違いを履き違えてないかい?いまさら変更だなんて無理が利くほど、君の我が侭に振り回されるわけにもいかないからね」
いくら紅薔薇の妹とはいえ、協力してくれている全員を振り回していいなんて権利はないだろう?
すっとスクアーロさまを見つめる白蘭さまの瞳は心を見透かすように澄んでいて、張本人ではないはずの俺でも背筋が少し震えてしまうほどだった。
「ねー?正チャンもそう思うよねー?」
「…白蘭さま…そこで茶化すと台無しですよ…」
ああもう、といわんばかりの溜息と共に、白蘭さまの隣に座っていた黄薔薇の妹、入江正一さまがうなだれる。
「大体、今までの練習では入江が相手役だったじゃねえかぁ!」
「僕は代役だよ…。最終的には、黒曜の生徒会長だって聞いてたけど?」
「俺は聞いてねえ!」
……どうしよう。まだ話が見えない。
役?黒曜の生徒会長?
黒曜といえば有名な男女共学校のはず。
少し距離はあるものの、お隣、といって差し支えない名門校だ。
何故その学校が話題に上るのか。
「あ、あの…」
「ん?ああ、まだ説明が足りてなかったね」
じゃあ、はい、バトンタッチ。と白蘭さまがディーノさまへと話を振った。
「え?俺?…うん、まあいいけど。えっとね…二学期の頭に文化祭があるのは知ってる?」
「あ、はい」
この学園の文化祭は少し珍しい時期に行われる。
文化祭――二学期の初め頃に開催される『小潮祭』。
学業に支障をきたさないよう準備期間を夏休みに持ってきた学園側の意図によって、生徒らは必然的に夏休み中も通学することになるのだ。
しかし、それゆえに立派な学園祭になるのも事実。
実際、去年の学園祭を見学しに来たのだから、見知っている。
そして、毎年恒例となっているのが……生徒会による演劇だった。
「で、今年の演目は、なんと『シンデレラ』に決定いたしまして」
「シ、シンデレラですか…」
男子校ゆえに女性役は毎年女装、というのは伝統になりつつあるから、今更驚くことではない…にしても。
シンデレラって…大半の出演者が女装ですか。
「シンデレラはスクアーロに決まったってわけ」
「っうわぁ…!」
スクアーロさまのシンデレラ!
見たい!見たい!それは見たい!
絶対綺麗に決まってる!
「決まったんじゃねえだろぉ!勝手に決めたんだろうがぁ!」
「でもどの役やっても女装からは逃げられないんだしって言ったら渋々了承したじゃん」
「っ…!だが、黒曜の生徒会長が王子だっつうのは聞いてねえ!」
ディーノさまがおっしゃるのはこうだ。
スクアーロさまは普段から会議をサボりがちで、役を決める際も参加されなかった。
それは自業自得だからと、スクアーロさまも泣く泣くシンデレラ役を了承したらしい。
小潮祭での生徒会による演劇は、代々黒曜学院の生徒会長を招いて行われるのが伝統で。
練習では入江さまが請け負っていた王子役は、本番では黒曜の生徒会長が演じることになっていて。
「いやだと」
「今更ね」
はあ、という嘆息混じりのディーノさまの言葉に続いて、白薔薇のつぼみである雲雀さんがフンと鼻を鳴らした。
「で、駄々をこねた紅薔薇のつぼみに向かって調子に乗ったこの人が痛いところ突いて煽ったってわけ」
まったく面倒臭い、と呟きながら紅茶のカップを口元へ近づける雲雀さんは、同じ学年だというのに溢れんばかりの気品を湛えていて、俺を物怖じさせる。
…ああ、なんとなく話が繋がってきた。
それで、『妹一人作れない人間に発言権はない』になったわけか。
そういえば、現在妹がいないのは紅薔薇のつぼみであるスクアーロさまだけだったっけ。
「黒曜からゲストを招くのは反対しねえ。恒例だからな。だが、わざわざそいつを王子役にすることねえだろぉ…!」
「ゲストとして招いておいてチョイ役じゃああんまりだろ。じゃあ何か?お前が王子やるのか?だったら黒曜の生徒会長には姫をやってもらうのか?」
半眼で呆れたように眉間に皺を寄せるディーノさま。
まあ、今更といえば今更なのだろう。
配役の変更なんて出来ないのかもしれない。
……けれど。
「あの……いいですか?」
「ん?どした?ツナ」
言いたいことがあるなら遠慮するなよ、とにっこり笑うディーノさまの顔面に、スクアーロさまが手近にあった鞄を投げつけた。
痛そう。
「こ、今回は、黒曜の方にお願いして、遠慮していただくわけにはいかないんでしょうか」
「………なんだ?妹になるのを拒絶しておきながら、ドカスのフォローに回ろうっていうのか?」
今まで一言も発さなかった紅薔薇、ザンザスさまがおもむろに口を開いて目を細めた。
クっと口端を吊り上げ、愉快そうに頬杖をつきながら。
「フォローとか…そんな大それたものじゃないんですが…」
「黒曜学院の生徒会にはもう連絡しちゃったから、無理だね」
クテ、と首を傾げながら白蘭さまが微笑む。
「じゃあせめて、スクアーロさまの役を替えて差し上げる、とか…」
「役を替える?」
「はいっ!例えば、雲雀さん、とか」
名前を出した途端、何言ってんの君、と雲雀さんの鋭くて危ない視線が俺を貫いたけど、なんとかそちらを見ないようにして俺はぐっと拳を握った。
ごめん雲雀さん。
単なる例えだったんだけど…やっぱりまずかったかな。
「雲雀さんならスクアーロさまに負けず劣らずお綺麗だと思いますし、どの役をやっても女装、とおっしゃられるなら問題ないかと…」
「一年の雲雀に主役を張れと?」
「この際、一年とか二年とか関係なくはないでしょうか」
それはそうだな、とさもおかしそうにザンザスさまが笑みを零す。
これは、もう一押しかもしれない。
「それに、連絡ミスだって、スクアーロさまだけの非ではないと思います。きちんとお伝えしなかった皆様にも責任が…」
「――う゛お゛ぉい!ちょっと待て綱吉!」
「っ!」
抱き寄せられていた肩が、押されるように離される。
「俺のためを思って言ってくれてるのはわかるがなぁ…ザンザスたちに対して、それ以上の侮辱は許せねえ」
先ほどまでの、ヒステリーに似た怒りではない。
もっと重みのある叱責。
「悪い。後でちゃんと言って聞かせる」
俺に向き合っていたスクアーロさまはくるりと回れ右をして、薔薇様方へと軽く頭を下げた。
身体を離されても、ポンと肩に置かれたままの右手が切ない。
空回りだったのだろうか。
余計なことを、してしまったのだろうか。
スクアーロさまの力になりたかったのに……やっぱり分不相応で…。
「ふん。……まあ、一理あるな」
ザンザスさまがぼそりと呟いた。
「ドカスの妹モドキが言わんとすることも間違ってはいない。連絡ミスがあったのだとすれば、ここにいる奴らにも責任はある」
「おいおい、まるでお前には責任ないみたいな言い方じゃん」
「俺の知ったことじゃねえ」
「お前〜」
ディーノさまがぷっくりと頬を膨らませながら唇を尖らせる。
どうにも、この方は子供っぽい一面をお持ちのようだ。
「じゃあどうするっつうんだよ。王子役の変更はきかないぜ?」
「ドカスを納得させればいいんだろ」
「スクアーロに、納得?」
「そうだね。無理矢理黒曜の会長とダンスを踊れっていっても嫌々じゃあいい芝居にはならないし」
横目で伺うように視線を流す白蘭さまは、どことなく怪しい雰囲気。
「王子役は替えられないのに、か?」
「ああ。……おいドカス」
ザンザスさまは自分の妹を『ドカス』呼ばわりだし。
悠々と足を組みなおしながら、斜に構え、座っているはずなのに見下すような視線で。
「賭けだ」
「賭け?」
「出来の悪いお前にチャンスをくれてやる。負けたら罰ゲームとして主役を演れ」
ふふん、と嘲うかのようなザンザスさまは、まるで負ける気がしないと言いたげだ。
「じゃあ、俺が勝ったら…」
「役を降りるなり替わるなり、好きにすればいい」
ほらまた。
絶対に負けない、という自信があるようにしか見えない。
…なんだか、嫌な予感がするんですけど。
「わかった。受けて立つぜぇ…!」
「え!?ちょっ!スクアーロさま!賭けの内容とか聞く前に決めちゃっていいんですか!?」
「こいつは言い出したらどんなに抵抗しても考えを曲げたりしねえんだよ。どうせ受けなかったら現状維持なんだから、失うものなんざ何もない」
おいおい。
もっと慎重な方かと思いきや、スクアーロさまって意外と大胆。
「ふん、内容なんざ簡単なもんだ」
ゆっくりと仰け反り、背もたれに深く沈みながら、ザンザスさまが唇を開く。
「ドカスがお前…沢田綱吉を妹に出来るか否か」
それだけだ、と言いながらふいっと顔をそむけてしまった。
もう興味がない、みたいな体を装って。
「なるほど。じゃあスクアーロは必然的に出来る方に賭けるわけだ」
へえ、面白そう、なんてディーノさまは目を見開きながら笑い出す。
ちょ…ちょっと待ってよ!
「俺の話は終わったんじゃ…!」
「一度は断られた君が、学園祭までに指輪を受け取らせるのはかなり困難だろうね。それでもやるの?」
ふっと目を細めながら微笑を含んだ声音で白蘭さまが尋ねてくる。
俺の抗議は丸無視ですか。
「受け取らせれば、その時点で降りられるんだなぁ?」
「もちろん。でもそれまでは主役として練習に参加してもらうよ?そのくらいの責任感はあるだろう?」
「黒曜の生徒会長と踊りたくなければさっさと綱吉を落とせってことかぁ」
「そういうことだな。ああ、俺たちはまったく手を出さないぜ。勝敗はスクアーロの努力次第だな。これ以上なく、フェアだろ」
「それでこそやりがいがある…!」
スクアーロさまはぞくりとするほど勝気な笑みで腕を組んだ。
「あ、っと。ツナ。スクアーロに協力しようとしてわざと指輪を受け取るのはナシだぜ」
「ああ、ならもしスクアーロが抜けて穴が開くようなら、シンデレラ役には綱吉くんに入ってもらうってことでいいんじゃない?」
「え、ええ!?なんでですか…!?」
「指輪を受け取った時点で姉妹だろう。てめえの『お姉さま』が開けた穴なら、妹であるお前が埋めるのは当然のことだろうが」
白薔薇様、黄薔薇様、紅薔薇様が順に好き勝手おっしゃる。
なんてことだ。それではまるで。
「薔薇様方とスクアーロさまの勝負っていうより、俺とスクアーロさまの勝負みたいじゃないですか!」
「みたいっていうか、そうだな。まあ、ツナにしてみれば簡単な話だろ」
ようは、指輪を受け取らなければいいだけの話なのだから。
それに、ツナに決まるならそれはそれで面白くていいじゃないか。
なんて、白薔薇様は非常に楽しそうに微笑んで。
「綱吉」
「は、はい!?」
隣に立つスクアーロさまを見上げれば、銀色の澄んだ瞳が俺を捕らえて離さなくて。
「必ず落としてやるから、覚悟しろ」
ふっと。
細まる瞳と弧を描く口元にクラリと意識を苛まれながら、俺は一体どうすればいいんだろうと口を開閉し続けるのだった。
初代様がみてる 2