注)スレツナ、というよりただの腹黒くて口汚い綱吉……です。ごめんなさい。











「この子が家光の息子だ。仲良くなさい」

「ハジメマシテ。ヨロシク」

わずかに視線をずらしているせいで目を合わせられないが、その生意気さが面白いと、同じくそっぽを向いているザンザスの隣で俺はそっとほくそ笑んだ。







レコンキスタ







「う゛お゛ぉい!ツナヨシ!どこだぁ!」

「あ、スクーやほー!相変わらず耳障りな騒音をどうもありがとう」

朝から無駄に元気だねーと呑気に手をヒラヒラさせる探し人は、談話室のソファに陣取り、液晶テレビのリモコンを握りながらゴロリと寛いでいやがった。

冷ややかさ漂う朝の空気の中、こいつの護衛を命じられた俺へ、いつの間にかツナヨシ様がいなくなってしまいました!と血相を変えた部下から連絡があったのが……一時間ほど前のことだっただろうか。

「お前……こんな所でなにしてやがる」

「何って……見てわかんないの?スクがそんなに耄碌してるとは思いもよらなかったよ。スクの脳細胞はそこらの人たちより数倍のスピードで死滅していってることくらいは知ってたけど、状況を見て判断もできなくなってるだなんて……どうしようー超かわいそうー。そんなんで暗殺者名乗れるってことは、この業界ってよほど人材不足なんだねぇ。ねえ?スク」

「………たった一言でそこまで罵られると…いっそ怒る気も失せちまうぜぇ…」

「よかったじゃん。血圧上がらなくって」

ねえ寒いから入るか出るかはっきりしてくれない?とテレビに向き直りながらツナヨシはパタリと横に倒れた。

ソファの背によって姿を見失ってしまう。

「また窓から出てこっちに来たんだろぉ。このエリアは一部の幹部しか足を踏み入れられないエリアだから、勝手に入り込むなっつったよな」

「だってさぁー護衛ってまるで監視じゃん。一晩中扉の前で立ってられたら、落ち着いて眠れやしないよ。逐一俺の様子を観察して何が楽しいんだか。どうせ九代目とバカ親父の差し金だろうし。きっもちわる」

ふん、と鼻を鳴らす肢体を目指して、俺はそっと室内へ踏み込む。

足音は鳴らない。

あつらえた絨毯によって見事に吸収されてしまうからだ。

ツナヨシがわずらわしさから逃げてきたこの部屋は、本来ヴァリアーの中でも一部の幹部にのみ開かれた一室である。

現状、ここを使用できるのはXANXUSと、その守護者である六人だけ…のはずなのだ。

横になりながらテレビ画面を見つめる四肢を視界に入れて、ソファの背に腰を預ける。

見下ろせば、ふわふわの茶髪がくたりと力を抜き、完全に寝そべったところだった。

「お前を愛してやまない父親達は、悪い虫がつかないか、入りこまないか、心配で仕方ねえんだろうよ」

「知ったこっちゃないっての。干渉の度合いに反吐が出るからここに移ってきたのにさ」

ったく。他に興味を持てる対象がないのかなぁあの二人。血さえ繋がってなければストーカーとして警察にでも突き出せるってのになぁ…。

右腕を曲げて枕にし、左手でリモコンを操作するツナヨシの言は、これでも毒のない方だ。

父親やゴッドファーザーらに溺愛されすぎたツナヨシへの過保護度合いは自宅軟禁に似た事態にまで発展するほどエスカレートしていて。

数年ぶりの再会を果たしたはいいものの、あまりにも込み入った異様な事態を見かねた俺がXANXUSの協力を求め、なんとかこいつの居住をここ――ヴァリアー本部に移してやったのだが…。

「なんならいっそ既成事実でも作ってやろうか?戦闘においてしか発揮されない飾りみたいな脳みその持ち主だけど見た目だけはそこそこのレベルでそこそこの地位を持った、微妙すぎる剣士とかとヤッちゃったりしたら……どんな顔するんだろ。うっわすごい楽しみになってきた!」

「……てめぇ…」

その相手というのは、もしかしなくても、俺か。

「ね?スクアーロどう思う?」

ふい、と顎を上げて俺を振り仰ぐ瞳の奥底で、橙の炎がユラリと揺れたように見えたが……錯覚、なのだろうか。

一日の大半を室内で過ごしているためか、日焼けのない、発光しているのかと見間違うほどに白い手が気まぐれに伸ばされる。

身を乗り出すようにツナヨシを覗き込んでいた俺の肩から、一束、銀糸の纏まりが流れ落ちた。

それを、手にとって。

「ねえ、スクアーロ。沸点が低くて、特攻型で、強いくせにツメが甘い、暗殺者としては微妙なレベルのお前だけれど」

「………それを言われて、俺が喜ぶとでも思ってんのかぁ」

「だからこそ、愚かで……嫌いじゃないよ?俺は」

噛み付こうとするスクアーロの言葉を受け流し、掴んだ髪を引くツナヨシ。

引かれるままに顔を落とし、身を屈めたスクアーロは、若干頬をピクリと引きつらせながらも無表情を保っていて。

悠然と弧を描く赤い唇と潤う瞳を間近に映しこみ、ピタリと動きを止めた。

覆いかぶさるでもなく、突き放すでもなく。

触れるでもなく、距離を置くわけでもなく。

「俺はさ、なーんにも欲しくないし、金品で俺の興味を引こうとする馬鹿げた大人たちは唾を吐きかけてやりたいくらい大っ嫌いだけど、さ」

大仰に、演じるように髪からパッと手を離し、語尾を跳ね上げながらツナヨシは。

「お前が俺から逃げられないことだけは、よーっくわかるし、面白いと思うし……受け入れてやってもいいと思ってるよ?」



侵略者のような顔をして、ツナヨシは俺の口元へと噛み付いてきた。







幼少の…初めての対面の折から……俺はこいつに何かを感じていた。

強さが全てという俺の世界で、こいつに秘められた特異な思考と人間性に、XANXUSとは違う力と強さを感じ取っていたのかもしれない。

XANXUSが絶対的な支配者ならば、こいつは……残虐的な侵略者だ。



『せいぜい俺を蹂躙したつもりで……屈服し続けるといいよ』

耳に直接吹き込まれた囁きは、俺の正常な思考を吹き飛ばしてしまった。







レコンキスタ



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