注)・スクアーロ、ザンザスがツナと同じ年。
  ・ツナが最初からイタリア住まい
  ・学園モノ
 上記に嫌悪感を抱かれる方は、どうか見なかったことにして、そっと窓をお閉めいただくか、ブラウザバックでお戻りくださいませ。









「………十五点。ありえねえぞぉ!」

「ひ、ひいぃい!」

ごめんなさい! と目を瞑りながら机につっぷす綱吉を見やり、スクアーロは深々と溜息をついた。

もちろん、気付かれないよう、細心の注意をはらいながら。

消沈する人間相手に呆れた様を見せるほど迂闊ではないからだ。







青い果実の勉強会







ことの発端は遠足のようにぞろぞろと連れ立って日本から帰国したその日。

二人きりになれた時間の短さに苛立ったまま、授業に出るべく教室の席についたスクアーロがふと真横に視線を向けた時だった。



「…………」

「………おい」

音で表すならば、ぽかーーーーーん。

いや、「ん」はないかもしれない。

手先、指先、足先、瞬きすら忘れて、身体中の全てを停止させたツナヨシが口も目も丸く開けて鞄の中を覗き込んでいる。

なんだ。何か忘れたのか。

声を掛けても反応を示さない様子を怪訝に思い、片目を眇めながら席を立った俺は、身を乗り出してツナヨシの手元を覗き込んだ。

「………おい」

わけがわからない。

特に何かない、というようなことは見受けられないのだ。

筆記用具はしっかりと詰まっているし、教科書の類も……こいつの場合は半分くらいは教室に置いてやがるからこんなもんだろう。

昼飯は食堂だ。財布もちゃんと隅の方に押し込められているではないか。

何がないというのか。何が足りないというのか。

「う゛おぉい、ツナヨシ」

瞼に重みを敷き、半眼でツナヨシの顔を覗き込めば、やっとひとつ瞬きをしやがった。

次の瞬間には「うひゃあ!」だと? 今更顔が近いからってびびるのかよ。

……いや、照れか。こいつがこうやっていちいち照れやがるから、俺もつられて顔が熱くなっちまうんだろうが。

「…何ボーっとしてるんだよ。もうすぐ鐘鳴るぜぇ」

さっさと用意しろ。お前は特にトロいんだから。

頬に赤みを注したまま仰け反るツナヨシを笑いつつ囁けば、瞬時にむっと唇を尖らせながら俺の身体を押しやってくる。

「トロくないですー! って……違う。違うんだよスクアーロぉ!」

かと思えば、いきなり引き寄せてきて。なんだ。やけに積極的だなおい。

……つうか、近い!さっき俺が覗き込んだ時より近いだろぉ!

「な、おま、お前…!」

「大変なんだってばー!」

さっきまで真っ赤になってたくせに、現状に気付いてないのかお前は!それともわざとなのかぁ!?

あと数センチ前傾姿勢をとれば唇が触れてしまうのではと思えるほどの距離。

くそう!なんで俺が翻弄されなきゃいけないんだ!

しかも朝っぱらから!

「どうしよう! どうしようスクー!」

「う゛、う゛おぉい! ちょっと待てぇ!」

聞いちゃいねえ。

襟元を両手でひっつかみ、ぐいぐい引き寄せてきやがるせいで俺の胸はざわつきっぱなしだ。

制止の声も無視して俺を揺さぶるツナヨシは、口を歪ませ、目を瞑りながら……ついには俺の肩へと倒れこんできた。

……いつもは人前でくっつくなと喚くツナヨシが!

「う゛おぉい! どうしたぁ!? 熱でも出たのかぁ!?」

そうだ。そうとしか思えない。

何せ強行軍だったのだ、今回の日本行きは。

丁度いい具合に連休だったものの、日本とイタリアを往復するにはギリギリの時間配分だった。体調を崩したとておかしくはない。

「おい、寮まで戻るかぁ? 無理ならせめて保健室に…」

「あ……いや、気分が悪いとか、そういうんじゃなくって……」

ぱっと顔を上げながら、現状にやっと気がついたのか一瞬キョトンとしたツナヨシだったが……。

「わっ、ご、ごめ…!」

ぐい、と俺の体躯を押しのけて顔に朱を上らせた。本日二度目。間髪いれずに、だな。忙しい奴だ。

「で? 何が『どうしよう』なんだぁ?」

「あ………あの、さ……」

こいつの表情はもとよりくるくる回るように変化するのだが…今日は特に赤から青から忙しい。

見ていて飽きないといえば飽きないが、こうも変化が激しいと不安感の方が煽られるというもの。

「あ、でも、スクにとっては、どうってことないかもしれないんだけど…」

「だから、なんだってんだぁ」

「あの、あの、さ……」

神妙な顔つき。

よほどのことなのか。

眉尻をぴくぴくと引きつらせながら眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げながら、がっくりとうなだれたツナヨシはそれでも再度、俺の肩へと手の伸ばした。

ポンと。

触れるだけの、掌からじんわりと広がる感触の波紋。

今度はブンブンと振り回されない、ということを確認して、俺は手元に移していた視線を引き寄せ、ツナヨシへ正面から向き合った。

そうすることでようやく核心を突いた、ツナヨシの言葉は……。


















「明日……明日、数学のテストあるじゃんかぁ…!」




















「…はぁ?」



それがどうした。と、いう言葉は寸でのところで飲み込んだ。

危ない。

どこか爆発寸前を思わせるツナヨシの様子からして、口にしてしまえば確実に機嫌を損ねていただろう。

……というか、漏れてしまった『はぁ?』のおかげで既にツナヨシはムっとしているのだが。

「うん、そりゃね。スクはいいよスクは。そこそこだけどなんでも出来るんだし。授業に出てれば十分だとか言っちゃう口だよね」

「口ってなぁ……しかもそこそことか言うなぁ!」

「次のテストで三十点以下だったら、放課後呼び出されて、次の定期テストまで先生付きっ切りの個人授業だって言われてたんだよー!」

「………はぁ?」

それは……いいんじゃねえのか。

テスト前はいつも一週間前から血相を変えてノートと睨めっこしているのだから、教師がついてくれるというのなら万々歳だろうに。

教師を独占できるなど…俺は微塵もうらやましくないが勉学に縋りつくお坊ちゃん方にしたら喉から手が出てくるほど妬ましい事態なんじゃないだろうか。

どうでもいいが。

「一人で苦労しなくていいから、お前にとってはプラスだろぉ」

「……でもさ、そしたら、スクといられる時間も確実に減るんだけど」





















「――――やるぞ」














「………へ?」

「寮に戻ったら緊急テスト対策勉強会だぁああ!」

「ええええええ!?」

我ながら素早い切り替えだと思うが、背に腹は変えられない。

ただでさえ最近傍にいられる時間が少なくなっているような気がしてならないのだから!

「こうなったら、みっちり叩き込んでやるぜぇ…」

「うえ……目、ギラギラしてるんですけど、スクアーロ…」





くくくと含み笑いを零しながらツナヨシを見下ろすスクアーロの目は、獲物を狩る時よりも爛々と輝いていたそうな。







青い果実の勉強会



続きは本にて。