クレイジーの、とある可能性の話








「たーいちょー!!」

「!」

「――んぎゃっ!」

「ふう……」

「ちょっと……なんで避けるんですか。俺の熱い抱擁を」

「お前のは抱擁じゃねえ!タックルだろうがぁ!」

「ええー?そこに好意があるか、敵意があるかで変わる程度のことじゃあないですか。器が小さいですねー!」

「俺の器をどうこう言う前にお前の器をでかくしろぉ!いつまでガキなんだぁお前は!」

「俺のどこをどう見ればガキだなんて言えるんだか。隊長こそ、年食って体力落ちたんじゃないですかー?俺の勢いを受け止めるだけの体力もないとか……」

「んなわけあるかぁ!俺はお前より格段に強いだろうが!経験の差はなぁ…努力では埋められないんだぜぇ」

「実際、本気出して戦闘したことなんてないじゃないですか。わかりませんよ!ああ、でも俺、隊長とは戦わないって決めてるんで」

「ああ?」

「隊長は『戦うための相手』じゃなくって、『戦いに行くための相手』ですから」

「……そう言うなら、さっさと用意しろよぉ!お前のために全隊員待たせてんだぞぉ!」

「あーはいはい。……挨拶、俺に話振らないでくださいよ?」

「そんなわけにいくかぁ。腹くくれ」

「うえー……」

「しっかりしろよぉ。副隊長さま」

「まだ、ですよーだ!挨拶して、口上述べて、証書をもらうまで、俺はただのヒラですから!」







長い長い廊下を、二人っきりでゆったりと歩んでいく。

晴天の春の日。

能力、経験、勘、共にヴァリアー雨の守護者スクアーロの右腕に足るほどの実力をつけたツナヨシは、渋るボスを説き伏せて、本日より、正式にスクアーロの隊の副隊長へと昇格する。

「いずれ、隊長の座もいただきますから、ね!」

「それは楽しみだなぁ」

やれるもんならやってみろぉ。

目を細めて弧を描くスクアーロに向かって、ツナヨシは軽い体当たりをかましながら、麗らかに。

ふわりと瞳を緩めて見せた。







クレイジーの、とある可能性の話


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